「ICTシステムの災害対策で必ずやるべきことは1つだけ」
日本クラウドコンピューティング株式会社
代表取締役社長 清水圭一
ICTシステムの災害対策の現状
東日本大震災から5年が経ちました。
震災直後は多くの企業でICTの災害対策の実施に向けて動き出しましたが、予想以上に多額の費用がかかることから、途中で頓挫してしまったり、一度は完成したものの、その後の維持管理運用ができておらず、いざ被災した場合、その対策が有効に働くものとはなっていない企業が多く見受けらます。
金融業などの一部の業種を除いては、災害対策は法的にも対応が必要なものではありません。
また、保険的な意味が意味合いが強いことから、経営課題としての優先順位を下げざるを得ない状況になりやすいのです。
しかしながら、いざ、企業が地震、津波、火災などの被害にあった時、対策を行っていなかったがために、廃業、倒産にまで追い込まれることも少なくありません。
特に、ICTを使って多くの業務処理を行っている現代では、ICTシステムの停止やデータの消失は、ICTシステムそのものが、その企業の業務プロセスであり、営業であり、資金回収なのです。
東日本大震災の際も、津波や火災の被害を受け、ICTシステムを失った企業が直面したのは、顧客データを失い、営業が再開出来ないこと、売掛金が回収できないことにより運転資金が底をついたことでした。
今回は、ICTシステムの災害対策を行う際のポイントについて、解説していきたいと思います。
ICTシステムの災害対策で本当に重要なことは1つだけ
ICTシステムの災害対策というと、いかなる場合も業務を継続したり、あるいは短時間で復旧したりと、完璧な災害対策を行うことを目指しがちです。
もちろん、資金に余裕のある企業や社会インフラを提供するような金融業や通信業などは、そこまで目指す必要があります。
しかし、大部分の企業では、被災した場合は、従業員も仕事どころではなくなりますし、お客様も被災している企業に、商品やサービスの提供を継続しろとは言いません。
被災した企業にとって一番大切なのはのは、その企業にとって、一番大切なものを守り抜くことなのです。
それは、お金であり、従業員であり、お客様です。
それを守り抜いて、被災後に、もう一度、ビジネスを再開することが出来れば良いのです。
この大切なお金、従業員、お客様をICT流にいうとデータです。
お客様データがあれば、また営業を再開出来ますし、従業員の社会保険データや給与データがあれば、被災後も従業員に迅速に給与を支払したり、社会保険の利用などを支援して、安心して働いてもらうことができます。
そして、取引先の売掛金や請求データが残っていれば、運転資金が不足するリスクも軽減できます。
ICTシステムの災害対策で一番重要なのは、このような企業内のデータをすべて守り抜くことなのです。
火事の多かった江戸時代、商家では、火事が起きるとすぐに大福帳と呼ばれる帳簿を井戸に投げ込んだといいます。
店舗や商品を失っても、大福帳があれば、いずれ商売は再開できます。
大福帳は現在で企業にあるデータなのです。
現代の大福帳であるデータを守り抜くには?
企業内のデータの所在は、ICTシステム内のサーバー、従業員のパソコンやタブレットやスマートフォンにあります。
これらのデータを定期的にバックアップを行い、そのバックアップを遠隔地の倉庫やデータセンターに送信するというのが一般的な方法です。
定期的にバックアップは、情報システム部がしっかりとした運用体制で行っています。
しかしながら、情報システム部がない中小企業などは、担当者や個人任せになっているケースが多く、しっかりと運用できているケースは稀です。
そこで、クラウドを利用して、インターネット経由で、自動的にバックアップデータをクラウドに送ってしまう方法が、手間もコストもかからず、最適な方法になります。
クラウドにバックアップデータを自動転送する仕組みは、セキュリティレベルやデータの容量、転送スピードなどの要件により、日本を代表する大手ICT企業が提供するサービスから、dropboxなど一般ユーザー向けの無料のサービスまで、様々な選択肢があります。
ここでは詳細な説明は割愛しますが、現在、データを保護する対策を何もしていない企業は、これから一秒後に起こるかもしれないデータ消失を起こさないために、早急に対策を行うことをお勧めします。
災害だけでなく、パソコンが故障したり、悪意のあるコンピューターウイルス、操作ミスなどでデータが消失することも日常茶飯事です。
そして、一度、消えたデータは戻ってこないのです。
クラウドを使うと災害対策が付いてくる
ICTの災害対策の手間を削減したいのであれば、業務システムを極力、クラウドサービスに切り替えるという方法もあります。
ほとんどのクラウドサービスでは、クラウドサービスの提供者側が、データを二重化あるいは、冗長化された方法で保管を行い、定期的なバックアップを行っています。
また、クラウドサービスのシステムが設置されているデータセンターは、地震や津波のリスクが低い場所に建てられていることがほとんどです。
クラウドサービスによっては、遠隔地の別のセンターにデータをバックアップしているものもありますので、クラウドにデータを置いておけば、災害対策にもなるというメリットもあります。
ICTの災害対策では、完璧を求めるが故に、コストが膨れ上がり頓挫したり、検討が進まないことがほとんどです。
しかし、本当に大切なことは、データを守りきるということだけです。
最悪の事態にならないための対策こそ、優先度が高い経営課題なのではないでしょうか。
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